2017年1月15日日曜日

『天使と悪魔』(上・下)

主人公のラングドンは,ハーバード大学教授で図像学者.CERNの所長に招かれスイスに飛び,そこである研究者が殺され,都市を消滅させられるような量の反物質が盗まれ,バチカン市国に持ち去られたことを知る.研究者の娘とともにローマに飛んだラングドンは,... というお話.ダン ブラウン著,越前 敏弥訳の単行本版.

良いところ:
  1. CERN,反物質,キリスト教,バチカン市国,ローマ等,様々なことについて知ることができる
  2. 息をつかせぬストーリー
  3. 字が大き目,行間も広めで読みやすい
残念:
  1. 長い
  2. 普段,宗教に縁遠い者には,教会関係者の心理描写に共感がわかない
  3. 終盤,主人公に関して荒唐無稽過ぎて興ざめ

ベストセラーで2009年に映画化もされている.世の中には物知りな人がいるんだなぁと思わされる.ただ,研究者の娘とか,話の中では魅力的な人物のようなのだが,人物描写からは伝わってこない.犯人の動機は,理屈はそうなのかもしれないが,まったく実感がわかない.終盤,ラングドン,ヘリコプターときて,いや,それはないだろうと思った.

つまらなくはないが,好きにはなれなかった.


天使と悪魔 (上)
2003/10/30
ダン ブラウン (越前 敏弥訳)

天使と悪魔 (下)
2003/10/30
ダン ブラウン (越前 敏弥訳)

2017年1月9日月曜日

低温雑煮

お正月に,『強火をやめると』本の「煮込み」(p.74~)を参考に,おそらくこんな風にやるのかな的に試してみた.当然のことながら,低温で食べる訳ではない.本のp.34にあるように「低速加熱」して作る雑煮というのが,実態に即している.

材料
大根,ニンジン,里芋,ほうれん草,鶏肉,餅

調味料・香辛料
白みそ,液体出汁

作り方
  1. 野菜は皮をむいて,大体同じ時間で煮えるよう,大根・里芋は気持ち大き目,ニンジンは小さめに切る.
  2. 冷えたままの鍋に大根,里芋,ニンジンを入れて,浸る程度に水を入れ,かすかに味が付く程度に液体出汁を入れる.
  3. 弱火で加熱する.ところどころでたまにプクッと沸く程度になってきたら,その沸き具合を維持するよう火をこまめに調節する.
  4. 食べ頃手前まで煮えてきたら,一旦ザルにあける.煮汁は捨てる.
  5. 同様に,ほうれん草を茹でる.食べ頃手前まで茹で上がったらザルにとる.煮汁は捨てる.
  6. 鶏肉を適当な大きさに切り,フライパンにサラダ油を引いて皮目を下にして並べ,中弱火で焼く.最初に出てくる水分や脂分はキッチンペーパーでふき取り,肉の色が変わってきたら裏返してやり,同様にキッチンペーパーを使いながら焼く.
  7. 鍋に水,液体出汁を入れ,下茹でした大根,里芋,ニンジン,焼いた鶏肉を入れて,中火で加熱する.
  8. 並行して餅を焼く
  9. 餅の焼き上がりを見計らって,白みそを溶いてみそ汁にする.
  10. 器に焼いた餅を入れ,みそ汁をかけて,下茹でしたほうれん草を載せる.かつお節を一つまみ載せて,出来上がり

日本のお正月~お雑煮をめぐる物語~によると,白みそ仕立ての雑煮を食べるのは大阪を中心に西は兵庫・徳島,東は滋賀・奈良の辺り (「白味噌文化圏」)らしい.かく言う筆者は,大阪出身です.

本の「ゆで野菜を作ろう」(p.78~)に従うならば,下茹ではうすい出汁ではなく「0.8%の塩分濃度の水」が正しいかもしれない.

下茹でに使った煮汁にはアクが出ていて,使えない.捨てるべし.

気持ちの問題のような気もするが,大根,里芋が煮崩れせず,味が染みてかつほっこりとしている気がする.ニンジンはニンジンらしい味が強まり,鶏肉も鶏の味がしっかりしている気がする.

例によって時間はかかるし,手間もかかる.でも,それらに見合った,嫌な味がないすっきりとした美味しい雑煮が出来上がると思う.ぜひお試しあれ.

2016年12月17日土曜日

『納得のいく死に方 医者との付き合い方』 (週刊東洋経済2016.9.24)

冒頭の「死と向き合う人々」に始まり,Ⅰ章 「納得のいく死に方」,Ⅱ章 「医師・薬と正しく付き合う」からなる.在宅死,延命治療・終末期医療,過剰診断,多剤投与,残薬,「終の住処」選び,(崩壊に瀕する)医療制度,といったことが記載されている.

良いところ:
  1. 死についての書きづらいであろうことが書かれている
  2. 高齢者偏重ともとれる医療の現状が書かれている
残念:
  1. 海外先進国の実情,取組が参考になると思われるが,取り扱いがとても少ない
  2. 過剰受診や膨らむ医療費に対する対処法の提言が少ない(ように感じた)
救命救急センターで激増する高齢者とか,高齢者に「がん検診」は必要かとか,「長生き」志向は間違っているとか,大変考えさせられる.「新たな透析患者は75~80歳が最も多い」等の事実には驚く.結局,GDPの10%超を費やして,高齢化社会にまい進しているということか.

上野千鶴子氏のインタビューの最後,「介護保険制度は絶対に後退させてはいけません」「自分たちの老後を危うくする政権を選択すると,自分の首を自分で締めることになりますよ」は,あまりにも老人視点のエゴではないか.誰がその費用を負担しているかとか,制度が持続可能かといった観点がまったく欠けている.


週刊東洋経済 2016年9月24日
2016/9/17




2016年12月4日日曜日

『図解カーエレクトロニクス [下] 要素技術編』

読んだのは,2010年6月28日版.上巻と同様,増補版が2014年8月6日付けで出版されている.システムを俯瞰していた上巻に続き,要素技術としてECUのハードウェア・ソフトウェア,センサ・アクチュエータ,半導体素子,製造技術,車両内ネットワークの動向や,設計支援ツール,故障診断,EMC (電磁両立性),信頼性技術と言ったユーザに意識されない技術についても多数の図を交えて触れている.

良いところ:
  1. 個別の技術に関して,少し突っ込んだ説明がなされている.
  2. 多くの技術について,参考文献が上げられている
残念:
  1. 上巻と同様,章によって,記述の質にバラツキがある.センサ,信頼性技術については比較的に充実している.共通標準部品化や国際標準化については,アッサリとしている
新人に上巻の次はこれを読めと渡すには無難な内容.が,二度読むような内容でもない.この辺りは,上巻と同じ.値段も高いと感じる.

図解カーエレクトロニクス 下 要素技術編
2010/6/24
デンソーカーエレクトロニクス研究会 (著), 加藤 光治 (監修)



2016年11月27日日曜日

『燃える男』

主人公のクリーシィは生きる目的を失っていた元傭兵.ある実業家の娘ピンタのボディガードとして雇われ,彼女と心が通い合うようになった.が,そのピンタが誘拐され殺されてしまう.クリーシィは復讐を誓い,身体を鍛え直し,... というお話.A. J. クィネル著,大熊栄訳の単行本版.

良いところ:

  1. クリーシィやグィドー,ピンタと言った登場人物をしっかりと描写している
  2. 比較的シンプルなストーリー
残念:
  1. (良い話なのに) カバーの絵が何とも古い
  2. 復讐が淡々と進み過ぎる嫌いあり

原著は1980年.二度,映画化されている.人物がよく描き込まれていると思う.ピンタやナディア,ローラに会ってみたくなる.良くも悪くも演出が控えめ.復讐の実行に入っても,ピンチらしいピンチも特になく,どんでん返しもない.誘拐は実は...ぐらいのひねりはあるが,概ね展開の読めるストーリー.でも,面白い.

カバーの絵でずいぶん損をしているように思う.

1982/8/25
A. J. クィネル (大熊栄訳)

2016年11月20日日曜日

低温肉じゃが

『強火をやめると』本では取り上げられていない.おそらくこんな風にやるのかな的に試してみた.味付けはすき焼きの割り下をヒントに,かなり薄めで.

材料
ジャガイモ,玉ねぎ,ニンジン,マロニー,すき焼き用(薄切り)の肉

調味料・香辛料
うすくち醤油,味醂,砂糖,液体出汁

作り方
  1. 大体同じ時間で煮えるよう,ジャガイモは気持ち大き目,ニンジンは小さめ,玉ねぎは少し大きめに切る.
  2. 醤油,味醂,液体出汁,砂糖で割り下を作る.目安は重さで1:1:1:0.5ぐらい
  3. 冷えたままの鍋に野菜を入れて,野菜が浸る程度に水を入れ,割り下を入れて味を付ける.
  4. ところどころでたまにプクッと沸く程度になってきたら,その沸き具合を維持するよう火をこまめに調節する.
  5. ジャガイモが食べ頃に煮えてきたら,マロニーを入れる.
  6. さらに,牛肉を広げるように入れて,割り下を振りかけて肉に味を付けてやる.
  7. 肉の色が変わってきたら裏返してやり,少し煮て出来上がり.

「塩は0.8%」とするのが難しいので味見しながらになるが,汁を舐めて気持ち薄味に感じるぐらいが良いと思う.

マロニーのかわりに,しらたきやくず切りでも良い.入れなくても良い.要は好き好きだけど,マロニーは煮崩れにくいし,肉じゃがに合うと思う.

味は,これまた気持ちの問題のような気もするが,ジャガイモが煮崩れにくく,かつほっこりとしている気がする.ニンジンは,ニンジンらしい味が強まる.玉ねぎも解けずに透き通って,柔らかくなって美味しい.肉を最後に入れてすぐに仕上げることで,固くならず,また肉本来の味がして良い.

例によって時間はかかる.大きな鍋で作る時は,最初の弱火が弱すぎると,なかなかプクッとし始めない.水からなので,気持ち大胆に火を入れても,「細胞壁のペクチンが温存」されつつ,「野菜の甘みは7~10分ぐらいかけてじわじわ出てくる」ようになる.

2016年11月12日土曜日

『ヒューマン・ファクター』

主人公のカースルはイギリスMI6に勤めるスパイで,赴任していた南アフリカ共和国から黒人の妻サラとその息子サムを伴って帰国していた.情報漏れがあって,同僚のデイヴィスが二重スパイとして処分されたが,実は...というお話.読んだのは宇野利泰訳のグレアム・グリーン全集第25巻.

良いところ:
  1. 雰囲気
  2. 母親の描写
残念:
  1. (残念とまではいかないが) 色々なことが,最後までは書かれない
  2. (同じく) 南アフリカでのことがスリリングそうなのだが,あまり書かれていない

映画のジェームス・ボンドのようなスパイらしい(?)活動は出てこない.二重スパイの重苦しさが特に何でというわけではないのだが,伝わってくる.サラとサムがどうなったのかとか,シンシアがどうなったのか,とか気になる.

残念は,例によって無理矢理.書いてしまうと,おそらく雰囲気が台無しになる.

1983/4/15
グレアム・グリーン (宇野利泰訳)